トラック新法で業界が変わる

運送業コンサルタント行政書士として、この法改正が運送業者の皆さまにどのような影響をもたらすのか、そして今からどのような準備をすべきなのかを詳しく解説します。

 

1.トラック新法とは?制定の背景

物流業界が抱える構造的課題

日本の物流業界は長年、以下のような構造的課題を抱えてきました:

〈多重下請け構造の常態化〉 元請→一次下請→二次下請→三次下請…と、際限なく続く下請け階層。各層で中間マージンが発生し、実際に運送を行うドライバーに適正な運賃が届かない状況が続いていました。

〈過当な価格競争〉 「標準的な運賃」は設定されていたものの、法的強制力が弱く、荷主との交渉で理解を得られたのは全体のわずか4割程度。結果として原価割れスレスレの運賃で受注せざるを得ない事業者が続出していました。

〈ドライバーの処遇問題〉 2024年時点でも大型運転手の労働時間は年間2484時間と全産業平均を大きく上回り、賃金は必ずしも労働に見合ったものではありませんでした。人手不足が深刻化する中、処遇改善は急務とされてきました。

〈白トラ(無許可業者)の横行〉 許可を取得せずに運送業を営む「白トラ」の存在も問題でした。これらの業者は安全管理が不十分で、事故リスクが高く、適正な競争環境を阻害していました。

2024年問題からトラック新法へ

2024年4月、働き方改革関連法によりトラックドライバーの時間外労働が年960時間に制限される「2024年問題」が業界を揺るがしました。

しかし、労働時間を制限するだけでは根本的な解決にはなりません。適正な運賃が確保され、ドライバーの処遇が改善されなければ、人手不足はさらに深刻化するだけです。

こうした背景から、業界団体の強い要望を受けて具体化されたのが「トラック新法」です。

 

2.6つの重要改正ポイント

①事業許可が「終身制」から「5年更新制」へ

〈改正内容〉 これまで一般貨物自動車運送事業の許可は、一度取得すれば終身有効でした。今回の改正により、5年ごとの更新制に変更されます。

〈なぜ必要だったのか〉 終身制では、経営状況が悪化したり、安全対策や法令遵守が不十分な状態でも事業を継続できてしまうケースが散見されていました。定期的なチェック機能が働くことで、質の低い事業者を業界から排除できます。

〈事業者への影響〉 5年ごとに以下の項目について審査を受けることになります: ・安全管理体制の維持状況 ・財務状況の健全性 ・法令遵守状況 ・労働環境の適正性

更新要件を満たせない場合、事業継続ができなくなる可能性があります。

②実運送体制管理簿の作成義務拡大

〈改正内容〉 これまで作成義務があったのは、真荷主(製造業や小売業など)から直接受注した元請事業者のみでした。今回の改正で、貨物利用運送事業者にも作成義務が拡大されます。

〈実運送体制管理簿とは〉 誰がどの区間を、いくらで運送しているのかを記録する帳簿です。これにより、多重下請け構造が可視化されます。

〈なぜ重要なのか〉 荷主は元請事業者に対して、業務取扱時間内であればいつでもこの管理簿の閲覧・謄写を請求できます。貨物利用運送事業者にも義務が拡大されることで、あらゆる案件で請負階層を把握しやすくなります。

透明性が高まることで、不透明な取引や不当な中間搾取を防ぐことができます。

③多重下請けを2次請けまでに制限(努力義務)

〈改正内容〉 元請事業者は、真荷主から引き受けた貨物の運送について、下請け構造を2次請けまでに収める努力義務が課されます。

〈なぜ2次請けまでなのか〉 三次、四次と階層が深くなるほど、各層で中間マージンが発生し、実運送事業者に届く運賃が減少します。2次請けまでに制限することで、実運送事業者への適正な運賃配分を実現します。

〈現時点では努力義務〉 現段階では「努力義務」にとどまりますが、行政の実態調査によっては、将来的に3次請け以降の禁止(義務化)が検討される可能性もあります。

④適正原価の告示

〈改正内容〉 国土交通大臣が、運賃・その他料金について事業運営に必要な費用を「適正原価」として定め、一般貨物自動車運送事業者は運賃・料金を適正原価未満で受託できなくなります。

〈これまでとの違い〉 従来の「標準的な運賃」は参考値に過ぎず、法的強制力がありませんでした。荷主との交渉で理解を得られたのは全体の4割程度にとどまっていました。

今回の「適正原価」は法的根拠を持つため、原価割れでの受注を法的に拒否できるようになります。

〈運賃交渉の武器に〉 これまで「他社はもっと安くやってくれる」という荷主の主張に押し切られていた事業者も、「法律で定められた適正原価を下回ることはできません」と明確に主張できるようになります。

⑤白トラの完全排除(荷主にも罰則)

〈改正内容〉 無許可の事業者、いわゆる「白トラ」への運送委託が明確に禁止され、これに違反した荷主企業にも罰則(100万円以下の罰金)が科されることになります。

〈なぜ荷主にも罰則なのか〉 これまでは運送事業者側への規制が中心で、白トラを使う荷主への罰則は軽微でした。需要側(荷主)を規制することで、白トラの存在基盤を根本から断つ狙いがあります。

〈荷主企業のリスク〉 荷主企業は委託先が正規の許可を持っているか確認する義務が生じます。知らなかったでは済まされず、確認を怠れば罰則の対象となります。

⑥ドライバー処遇改善の明確化

〈改正内容〉 改正法では「能力に対する公正な評価に基づく適正な賃金の支払・処遇」が運送事業者に明確に求められます。

〈具体的には〉 運送事業者がドライバーの知識、技能、その他の能力を公正に評価し、その評価に基づいた適正な賃金の支払いなど、適切な処遇を確保することが義務付けられます。

〈人材確保への影響〉 適正な処遇が法的に義務付けられることで、ドライバーのモチベーション向上、離職率の低下、そしてひいては物流業界全体のイメージアップにもつながることが期待されます。

 

3.運送事業者への具体的影響

ポジティブな影響

①適正運賃を主張する法的根拠の獲得 これまで「言い値」で押し切られることが多かった運賃交渉において、適正原価という法的根拠を得られます。価格競争から品質競争へのシフトが期待されます。

②不当な競争相手の排除 5年更新制により、安全管理や法令遵守が不十分な事業者が排除されます。また白トラの完全排除により、適正な競争環境が整備されます。

③ドライバー確保がしやすくなる 処遇改善が法的に義務付けられることで、業界全体の労働環境が向上します。「きつい、汚い、危険」のイメージから脱却し、人材確保が容易になる可能性があります。

④多重下請けからの脱却 2次請けまでの制限により、中間マージンが減少し、実運送事業者に適正な運賃が届きやすくなります。

ネガティブな影響(課題)

①更新制への対応コスト 5年ごとの更新に向けて、内部統制の強化、書類整備、安全管理体制の維持など、継続的なコストが発生します。

②実運送体制管理簿の作成負担 すべての案件について詳細な記録を残す必要があり、事務作業の負担が増加します。デジタル化による効率化が必須です。

③取引構造の見直し負担 多重下請け構造になっている案件について、2次請けまでに収める努力が求められます。既存の取引関係の見直しが必要になる可能性があります。

④短期的な混乱 新制度への移行期には、現場での混乱が予想されます。社内教育や取引先との調整に時間とコストがかかります。

 

4.荷主企業が知っておくべきこと

トラック新法は運送事業者だけでなく、荷主企業にも大きな影響を及ぼします。

①物流費の上昇は避けられない

適正原価の導入により、運賃は上昇する傾向にあります。「安ければいい」という発想から、「適正価格で持続可能な物流を確保する」という発想への転換が求められます。

②委託先の確認義務

白トラへの委託に罰則が科されるため、委託先が正規の許可を持っているか確認する義務が生じます。許可証の確認、定期的な監査などが必要です。

③実運送体制管理簿の活用

荷主は元請事業者に対して実運送体制管理簿の閲覧を請求できます。多重下請け構造になっていないか、適正な運賃配分がなされているかを確認し、必要に応じて取引構造の見直しを主導することが望ましいでしょう。

④物流の効率化投資

運賃上昇を吸収するためには、物流効率化への投資が不可欠です。荷待ち時間の削減、パレット化の推進、共同配送の検討など、荷主側でできる改善も多くあります。

 

5.2026年施行までにすべき準備

トラック新法は段階的に施行されます。

〈2026年4月施行〉 ・貨物利用運送事業者に対する実運送体制管理簿の作成義務 ・2次請け以内に制限する努力義務 ・無許可業者への委託禁止と荷主への罰則

〈2028年度までに施行〉 ・事業許可更新制度 ・労働者処遇の明確化 ・適正原価の告示

運送事業者がすべき5つの準備

①実運送体制管理簿の整備 デジタル化を前提とした管理体制の構築が推奨されます。手作業では負担が大きすぎるため、ITシステムの導入を検討しましょう。

②取引構造の可視化と見直し 現在の取引が何次請けになっているか把握し、2次請けまでに収める方策を検討します。場合によっては取引先の見直しも必要です。

③適正原価に基づく運賃交渉の準備 自社の適正原価を正確に算出し、既存取引先との運賃見直し交渉の準備を進めます。適正原価の告示後、速やかに交渉できる体制を整えましょう。

④安全管理体制・内部統制の強化 5年更新制に備えて、安全管理体制、法令遵守体制、財務管理を強化します。日常的な記録と監査が重要です。

⑤人事評価・賃金制度の見直し ドライバーの能力を公正に評価し、適正な賃金を支払う制度の構築が必要です。評価基準の明確化、透明性の確保がポイントです。

荷主企業がすべき3つの準備

①委託先の適格性確認 現在取引している運送事業者が正規の許可を持っているか確認します。許可証のコピー取得、定期的な確認体制の構築が必要です。

②物流費予算の見直し 適正運賃への移行により物流費が上昇することを前提に、予算の見直しを行います。経営層への説明資料の準備も重要です。

③物流効率化の推進 荷待ち時間削減、積載効率向上、共同配送など、荷主側でできる効率化施策を推進します。運賃上昇を効率化で吸収する発想が重要です。

 

6.まとめ:持続可能な運送業界へ

トラック新法は、運送業界にとって「痛みを伴う改革」です。短期的には、事業者にも荷主にも負担が増えるでしょう。

しかし、この改革なくして業界の持続可能性はありません。

「多重下請け構造の是正」により、実運送事業者に適正な運賃が届くようになります。

「適正原価の法定化」により、過当な価格競争から解放されます。

「ドライバー処遇の改善」により、人材確保がしやすくなります。

「5年更新制と白トラ排除」により、質の高い事業者が評価される環境が整います。

物流なくして経済は回りません。日本の物流インフラを次世代に引き継ぐために、今、業界全体で変わる時です。

運送業コンサルタント行政書士として、私は運送事業者の皆さまの法改正対応を全力でサポートいたします。

許認可手続き、実運送体制管理簿の整備支援、運賃交渉のアドバイス、内部統制の構築支援など、お困りのことがあればお気軽にご相談ください。

一緒に、持続可能な運送業界を創っていきましょう!

 

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